サービスの対価はなぜ曖昧なのか?(“おもてなし”の原価を考える)

2 経営を取り巻くお金の話

旅館で感じた“妙な違和感”

😏 私
先日、久々に日本旅館に泊まった。
友人の強い勧めで、郊外の温泉地にある老舗の宿だ。

到着すると、玄関で女将が笑顔で出迎えてくれる。
部屋に通されると、専属の仲居さんが丁寧に挨拶し、お茶を淹れてくれた。
夕食は食堂ではなく部屋食。料理が一品ずつ運ばれ、季節の器が並ぶ。
まさに「古き良き日本旅館」の趣だ。

今回、私は久々に“心付”を包んだ。
少しばかりの現金を祝儀袋に入れ、仲居さんに渡す。
彼女は恐縮しつつ、丁寧に受け取ってくれた。

……が、夜になってふと気づいた。
この宿、驚くほど安い。平日とはいえ、食事付きで約1万円。
1部屋に1人の仲居がついて、あの丁寧な接客をしてこの値段。

なんだか、もやっとする。
あの仲居さんの労力と時間は、いったいどこに含まれているのだろうか。

日本では「サービスの原価」が不明瞭?

💬 ランディ君
日本の宿泊業では、「人件費をどこまで料金に含めるか」が曖昧なケースが多いです。
観光庁の調査(出典:観光庁・宿泊旅行統計調査2024年版)によると、国内旅館の平均宿泊単価は約1万2千円。
一方で、人件費率(売上に対する従業員給与の割合)は40%を超えています。

つまり、旅館業は“人に頼る構造”でありながら、その労働コストを十分に転嫁できていないのです。
特に「おもてなし」という文化的概念が強く、「サービス=料金外」「心で尽くすもの」と捉えられがちです。

😏 私
なるほど。つまり、サービスの対価が“あいまい”なまま文化として定着してしまったわけだ。
おもてなしの精神は尊いが、あれを“無料”にした時点で、働く人の負担は確実に積み上がる。

チップと心付の違いを考える

💬 ランディ君
日本では「心付」と「チップ」が混同されがちですが、性質は異なります。
チップは「サービスを受けた後」に支払う対価的な性格が強いのに対し、心付は「サービスを受ける前」のご祝儀的な意味合いがあります。

欧米では、サービス労働の一部をチップで補う仕組みが成立しています。
しかし日本では、法制度的にも商習慣的にもそれが根付きませんでした。
その結果、「サービス料込み」という価格設定の透明性が欠けやすい構造となっています。

😏 私
つまり、宿泊費が“全込み”であるように見えて、実は“心の分”が見積もりに含まれていないのだな。
旅館の仲居さんは笑顔で応対してくれるけれど、もし原価計算をすれば、あの笑顔も無料サービス扱いということか。
……笑顔にも人件費はかかるんだぞ、と思わず言いたくなる。

サービス残業の構造と“無料文化”

💬 ランディ君
「サービスの対価が曖昧」という文化は、企業内の「サービス残業」問題にも通じています。
日本労働政策研究・研修機構の調査(出典:JILPT労働時間等実態調査2023)によれば、月20時間以上のサービス残業をしている社員は全体の約3割。
その多くが「仕事だから」「みんなやっているから」という理由で黙認されています。

😏 私
つまり、サービス精神が美徳として評価される一方で、経済的な裏付けがまったく伴っていないのだな。
「お客様の笑顔のために」と言いながら、その笑顔を支える従業員の疲労は、経費として計上されない。
まるで“感情労働”を無料で提供しているようなものだ。

“お得”の裏には誰かの無償労働がある

💬 ランディ君
近年、人手不足が深刻化しています。
厚生労働省の調査(出典:厚労省・雇用動向調査2024)によると、宿泊・飲食業の有効求人倍率は2.85倍と、全産業平均の約2倍です。
つまり、サービスを支える人材が足りていないにもかかわらず、料金は依然として“安く”抑えられたままです。
このギャップが、現場の疲弊を加速させています。

😏 私
お得な宿の裏には、誰かの無償労働が隠れている。
そう考えると、気楽に「コスパ最高!」とは言いづらい。
値段の安さに感動している間に、どこかで誰かが消耗しているのだ。

サービスのコストを「見える化」する時代へ

💬 ランディ君
現在、いくつかの企業では「サービス料金の明確化」が進みつつあります。
たとえば、ホテル業界では「清掃費」「レイトチェックアウト料」などを別建てで表示する動きが広がっています。
これにより、顧客は「料金の構造」を理解し、企業も正当な利益を確保しやすくなります。

😏 私
なるほど。つまり“サービスの原価を隠さない”ことが、持続可能な経営の第一歩だな。
おもてなしの心を守るためにも、まずは「笑顔のコスト」を可視化すべきだ。

まとめ:サービスを“無償”にしない勇気

  • 「おもてなし」は尊いが、無料では持続しない
  • チップ文化のない日本では、サービス原価を料金に組み込む工夫が必要
  • サービス残業も“見えない無料労働”の一形態
  • “安さ”の裏には誰かの犠牲がある
  • サービスの対価を明示する企業が、結果的に信頼を得る

💬 ランディ君
結論として、「価格の透明化」は顧客の理解と従業員の幸福を両立させる手段です。
今後は「安さ」より「納得感」を基準に選ばれる時代になるでしょう。

😏 私
なるほど。
「心付のいらない宿」より、「心が報われる職場」が先だな。

コメント

タイトルとURLをコピーしました